虫歯が神経まで進行してしまった場合、神経をとる治療を行うことがあります。
しかし、その神経を保存できる可能性はある治療、「Vital Pulp Therapy（VPT）」をご存じでしょうか。

【VPTの治療法】

①虫歯やすでに装着してある詰め物をすべて除去します。 ②歯の神経（歯髄）が露出した場合、炎症が起きている歯髄のみを除去・洗浄します。 ③露出した歯髄の上に、MTAセメントと呼ばれる材料を充填します。 ④細菌が侵入しないように、樹脂の材料（レジン）で封鎖し、経過観察します。 ⑤経過観察後、痛みなどの症状がないことを確認し、最終的な詰め物へと移行します。

【MTAセメントの特徴】

VPTで露出した神経の保護に用いられる材料の第１選択は、「MTAセメント」です。その理由は他の材料と比較し、以下の示す優れた特徴があるためです。

①優れた封鎖性
他の歯科材料と比較して、封鎖性に優れているため、より細菌の侵入する防ぐことができる。 ②良好な生体親和性
生体親和性が良いため、治療後の周囲の組織の治癒や再生を阻害しない。 ③親水性
歯科治療において用いられる材料は乾燥状態で、最大限の効果を発揮することが多いです。そのため、唾液や血液などの水分や湿気は、治療の成功の妨げとなります。
一方、MTAセメントは、非常に親水性が高いため、外科的な処置の際や，出血がある部位などで乾燥状態が確保できない環境下でも、効果を発揮できます。 ④抗菌作用
高アルカリ性のpHのため、抗細菌性の周囲環境を生み出す。

【VPTのメリット】

①歯を削る量が少なくできる
歯を削る量が増えるほど、歯の強度が失われるため、歯の破折など二次的なトラブルが起こりやすくなります。
虫歯で神経が露出しても、VPTを行えば、歯を削る量が抑えられるため、結果的に、歯の寿命が伸ばせる可能性があります。②治療回数が短くなる
歯の神経をとる治療の場合、歯の神経が入っている管（根管）を消毒清掃し、その後お薬を充填、土台を立てて、被せ物をするといった治療ステップが必要で、治療回数がかかってしまいます。VPTの場合、2～3回の治療で完了するため、治療回数を短縮することができます。

【VPTのデメリット】

①自由診療
MTAセメントを用いた、VPTは保険適応外です。しかし、根管治療を行わず、また失われる歯は抑えることができるため、長期的に見た、総医療コストは軽減できる可能性があります。②すべての虫歯に適応とはならない
VPTによって残せる神経ケースは、神経の全体に炎症または感染がおこっていない場合です。何もしなくても痛みがある場合は、神経の全体に炎症が起きているため、適応できません。また、すでに神経に感染が起きていた場合も適応できません。③VPTの成功率は高いですが、残念ながら100％ではありません。治療したにも関わらず、神経に炎症・感染が起きてしまう可能性はあります。しかし、最初の診断が適切であれば、この失敗を回避できます。

【まとめ】

VPTは、虫歯が深い場合でも、神経を残せる素晴らしい治療法です。これには、MTAセメントという非常に優れた特徴を持つ材料の影響が大きいです。しかし、当然ながら材料だけではなく、ドクターの「診断力」、「技術力」、「治療の精密さ」が最も重要です。
もし、虫歯でお悩みの方、歯の神経をとると診断された方は、遠慮なく当院へご相談ください。